NHK プレミアム8 梁石日(ヤン・ソギル) 人生の狂躁曲(きょうそうきょく)~梁石日が語る父と文学~
代表作『血と骨』はヤンソギルさんの父の生涯を描いたものだ。朝鮮には「骨は父より受け継ぎ、血は母から受け継ぐ」という家父長制度を象徴する言葉がある。死んで血肉は腐り果てても、最後に骨だけは残る。息子、跡取りに対して特別な思いがあるのだ。実はヤンさんにとっては、父こそが、目の前に立ちはだかる大きな壁になっていた。父との相克を通して「家族とは何か、幸福とは何か」を自らに問いかけることになる。 朝鮮半島が南北に分断された時代に思春期を迎えたヤンソギルさんは、徐々に社会主義や文学の世界に傾倒していく。マルクス思想や実存主義に感化され、自ら詩を書くようになった。そして、詩人・金時鐘と出会い、サークル誌「ヂンダレ」に参加、「政治的イデオロギー」や「文学」「在日」について、自分なりの理論を構築していくことになる。しかしその後、大阪を追われる事になり文学への思いは自ら封印することになる。 日本人は、他者であるアジアと向き合おうとしない。だからいつまでたっても、アジア人としての日本人の姿形というものが見えてこない。「私(コリアン)も、あなた(日本人)もアジアの一員として存在している」ということを知ることが重要なのだとヤンソギルさんはいう。そして、格差社会がますます巨大化し、底辺に暮らす人々、特に女性や子どもたちにそのしわ寄せが集中している今、ヤンさんの眼は、日本だけでなく、世界に広がる深い闇を見つめている。冷戦後、社会主義や共産主義は幻想に終わり、資本主義が勝利したとも言われるが、確実に資本主義にほころびが現れてきている現在、ヤンさんは未来になにを託そうとしてペンを走らせるのか…。
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