日韓音楽交流に意欲 オペラ歌手田さん、東京で披露 

 韓国政府が日本大衆文化の段階的開放を決めたことで、日韓文化交流の一層の活発化が期待されている。在日韓国人二世のオペラ歌手、田月仙(チョン・ウォルソン)さんは音楽を通した日韓交流を体現してきた一人だ。

 東京都とソウル市の友好都市提携10周年を記念し、10月末にソウルで開かれた野外コンサート。約2000人の聴衆が見守る中、田さんは「赤とんぼ」と「浜千鳥」を日本語で歌った。童謡や歌曲の日本語公演は以前にも認められたことがあったが、韓国政府の開放策発表直後だっただけに注目を集めた。

 「受け入れてもらえるだろうか」――。そんな不安がよぎったが、歌い終わると会場は大歓声に包まれた。「いい歌は、国境を越える。『大衆歌謡』、『歌曲』のジャンル分けも関係ない」。それだけに、日韓親善に最もふさわしいと選んだ「夜明けの歌」が、まだ解禁されていない大衆歌謡だとして歌うことを許されなかったのを、今も残念に思う。

 両親は韓国・慶尚南道の出身。東京で生まれ、民族学校で祖国の言葉を学んだ。桐朋学園短大で声楽を学び、83年デビュー。85年に平壌、94年にソウルで初公演した。在日として日本にも朝鮮半島にも距離感を感じていた田さんに、「在日だから双方の立場を理解できるし、南北統一のために歌うことができる」というプラス思考をもたらしたのが南北での公演だった。94年のソウル公演後は、南北統一をテーマにした「高麗山河わが愛」を日韓両国で歌い続け、反響を呼んでいる。

 今月初来日する韓国の反体制派詩人、金芝河(キム・ジハ)さんとも交流があり、6日の東京公演(日比谷・イイノホール)では代表作「五賊」のパンソリ(唱劇)公演をプロデュース。自身も金芝河さん作詞の歌曲を歌う。

 「五賊」は財閥や国会議員など朴正煕政権下の特権階級を痛烈に風刺した物語詩で、70年に発表された。「詩の内容ももちろん素晴らしいが、『五賊』そのものが持っているリズムや韻の踏み方は、韓国の伝統芸能であるパンソリにのっとっている。先生の文化業績をぜひ日本に伝えたい」と意気込んでいる

  写真=オペラ歌手の田月仙さん(11月23日、東京国際フォーラムで)