文化開放へ相互理解を 日韓で活動する在日韓国人オペラ歌手の田月仙
東京都とソウル市で開かれた姉妹都市提携十周年の記念公演で昨年十月、日韓両国の歌を歌った。しかし、ソウル公演では思わぬ形で”政治の壁”にぶつかることになった。公演の直前になって韓国文化観光省が、事前申請していた「夜明けの歌」を不許可と決定。マスコミの大きな話題になったのだ。
「『夜明けの歌』は、最初に頭に浮かんだ曲でした。あすへの希望に満ちた歌で、あの場で歌うのにふさわしいと思ったんです」
不許可の理由は「日本の大衆歌謡」だから。童謡の「浜千鳥」「赤とんぼ」は日本語での歌唱が認められた。韓国の金大中大統領が来日し、日本文化の段階的開放方針を発表した直後のことだった。
「文化観光部としては、『夜明けの歌』を認めると大衆歌謡を解禁したことになるのでだめだということでした」。それでも公演の冒頭、歌詞を付けずに「夜明けの歌」をアレンジしたメロディーを歌った。無念さのあかしだった。
東京生まれの在日二世。一九八五年に朝鮮民主主義人民共和国・平壌の「世界音楽祭」に招待を受けた。九四年にはソウルのオペラハウスで「カルメン」の主役を演じ、在日で初めて三八度線を越えた「南北公演」を実現した。
戦後五十年のリサイタル以来ステージで歌い続けているのが南北和解を願う韓国歌曲「高麗山河わが愛」。東京、ソウルでの十月公演でも披露した。韓国を代表する詩人金芝河(キム・ジハ)が初来日した昨年十二月には、金芝河の詩による創作音楽劇で歌うなど、日韓の歌の交流で大きな役割を果たしている。
「文化解禁と言っても公式な場所やテレビのこと。文化というのはもともと抑えるものじゃない」。これからは全面開放に向け、日韓双方でお互いを知る努力が必要だと語る。
「日本は二拍子とか四拍子の歌が多いけど、韓国は八分の六拍子とか三拍子系の歌が多いんです。でも、熊本の『五木の子守歌』は三拍子系。何か九州と韓国の共通点を感じます。ぜひ九州でも歌う機会を持ちたいですね」
熊本日日新聞社