「日韓国交正常化50周年特別企画 オペラ『ザ・ラストクイーン』―朝鮮王朝最後の皇太子妃」(2015年9月27日、新国立劇場・中劇場)
このオペラの内容を簡単に記せば、朝鮮王朝最後の皇太子妃となった李方子妃(リ・マサコ)の生涯を描き、彼女は政略結婚で日本の皇族から韓国に渡る。作曲は東京音大卒の若手、孫東勲(ソン・ドンフン)とRygetsuであり、オペラ作曲家として楽壇に本格的にデビューを果たすとのこと。編成はソプラノ、アルト、テノール、バリトンのコーラスだが4名。楽器群はピアノ、ヴァイオリン、チェロ、フルート、打楽器の5名である。緩急法や音色的な配慮も音楽の中に美しく盛り込んでいて、朝鮮半島のリズムや日本のメロディーも時折聴こえ、この作曲家は作品全体のイメージをしっかりとつかんでいるように感じられた。
それにしても今回のオペラの初演は、田月仙(チョン・ウォルソン)の情熱と意欲がなければ実現しなかったであろう。彼女が企画・台本・主演(李方子役)・音楽監督なのである。田月仙は2015年外務大臣表彰を受賞し、デビュー当時から日本に韓国の歌を紹介するなど、日韓文化交流の中心人物の一人として活躍するソプラノ歌手。登場人物は李方子妃と、バレエダンサー(李殿下の化身役)の2名である。
田月仙の芝居が良く、筆者には詳しくはないが、所作の決まりなど風格のあるものであった。バレエダンサー(相沢康平)の動きが伴うと、よりオペラの内容が理解でき、見ていて美しい舞台になっていた。田月仙の表現には、暗示や思わせぶりがなく、ごく自然に歌い上げ、豊かな情感の陰影、情熱の高揚を蔵しており、特に第8景の〈二つの祖国〉「私の大切な 二つの祖国 私が生まれ育った国 私に愛を授けた国」では、彼女は李方子妃との考え方と同じで、はっきりとした主張で歌い通したのではないだろうか。
日本と韓国はかつて「最も近くて遠い国」と言われてきた。今だに両国の関係はぎくしゃくとしているのが現状である。朝鮮の土となった日本人、李方子妃のことはオペラで初めて知った。私が知っている人は、浅川巧である。彼は朝鮮の民芸の中に優れた民族文化の美を見つけ出したことで有名である。柳宗悦も失われていく朝鮮美術工芸品を所有した。真の文化交流が日本と韓国の関係を豊かにするのである。今回のオペラ公演はその意味でも非常に有意義な企画であった。両国の歴史文化を知ることも日韓の交流には大切であり、それなくしては真の友好はないのである。(藤村貴彦)
http://www.musicpenclub.com/review-c-201511.html
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